【弁護士が解説】不当利得について徹底解説
「相続で不当利得になるケースを知りたい」
「不当利得の取り戻せる範囲や時効期限はどのくらいなんだろう」
「不当利得返還請求はどうやるの?」
今回は、相続の不当利得について解説します。
相続で不当利得に該当するケースを知らないと、知らないうちにほかの相続人の利益を侵害したり、親族間でトラブルに発展したりするかもしれません。
しかし、不当利得に該当するケースを理解していれば、事前にトラブルを回避できるでしょう。
本記事の内容は以下についてです。
- 相続人が不当利得を取り戻せる範囲3選
- 相続で不当利得返還請求ができる期限
- 相続で起こりやすい不当利得の事例
- 相続の不当利得返還請求の手順4ステップ
最後まで読めば、不当利得被害にあったときの返還請求のやり方まで理解できます。
相続が発生する可能性があり、被相続人の遺産をどのように分割すればいいのか不安に思っている方は、参考にしてみてください。
不当利得とは?
不当利得とは、法律上の権利がないにもかかわらず他人の財産や労務などを損失することで利益を得ることです。
たとえば、お店で商品を購入した際に、お釣りを多くもらってしまったことも不当利得にあたります。
不当利得によって被害を被った人は、受益者に対して利益の返還を求める不当利得返還請求を引き起こせます。
相続の場合、ほかの相続人が本来得るはずの遺産を別の相続人が必要以上に使い込むケースが多いです。
この場合、被害にあった相続人は、不当利得を得た相続人に対して返還請求を求められます。
参照元:WIKIBOOKS|民法第703条
相続人が不当利得を取り戻せる範囲3選
相続人が不当利得を取り戻せる範囲を以下の3つの場合ごとに解説します。
- 現存利得が原則
- 悪意があった場合
- 返還ハードルが高い場合
それぞれ解説するので、どのくらい返還できるのか参考にしてみてください。
1.現存利得
被害を被った方は受益者に対して不当利得返還請求を引き起こせますが、原則返還される範囲は現存利益が限度になります。
現存利益とは、不当利得のうち受益者に対して現在残っている利益のことです。
たとえば、不当利得受益者が被相続人の預貯金を2割だけ使い込んでいた場合、残りの8割を返還請求できます。
しかし、利益を全て使い込まれていた場合、請求しても返還されない可能性があるため注意が必要です。
このように、原則は現在残っている利益が返還対象です。
2.悪意があった場合
相手に悪意があることを立証できれば、利益全額に利息もつけて取り戻すことができます。
ここでいう悪意とは、不当利得であることを知っている場合を指します。
また、被害者が不当利得によって別の損害を与えられた場合、その損害分についても請求することが可能です。
参照元:WIKIBOOKS|民法第704条
3.返還ハードルが高い場合
不当利得の返還は現存利益の範囲で現物返還されることが一般的です。
一方で、利得が第三者に譲渡されたり消費されたりして現物返還が難しい場合は、相当額の価額賠償になります。
価額賠償の場合、一般的な相当額が算出されるため詳細な損害額を保証することは難しいかもしれません。
弁護士に相談すれば、賠償条件や詳細な損害金額を請求できる可能性が高まります。
相続で不当利得返還請求ができる期限
不当利得返還請求は、相続にかかわらず以下のいずれかの期限を過ぎると請求できなくなります。
- 権利が行使できることを知ったときから5年
- 権利を行使できるときから10年
たとえば、被相続人の現金が使い込まれてから返還請求できると知ったときから5年以内、または現金を使い込まれたときから10年以内に請求しなければいけません。
また、遺産分割自体には期限がありませんが、不当利得返還請求権が時効により消滅していて利得を請求できない可能性があるので注意が必要です。
不当利得は発覚してから早めに返還請求するほうがいいでしょう。
参照元:WIKIBOOKS|民法第166条
相続で起こりやすい不当利得の事例
相続では、不当利得が起こりやすい代表例があります。
以下が発生しやすい具体例なので、知らないうちにほかの相続人の利益を損害しないように注意しましょう。
- 被相続人の預貯金を勝手に出金する
- 被相続人の現金を勝手に使う
- 被相続人の生命保険を勝手に解約する
- 被相続人の不動産収入を勝手に利用する
- 被相続人の株式を無断で売却する
遺産分割の前に上記の行為を行うと、不当利得にあたります。
相続財産は遺産分割が終わるまでは、無断で使ってはいけないので注意しましょう。
相続の不当利得返還請求の手順4ステップ
ご自身が不当利得の被害に巻き込まれることがあるかもしれません。
相続の不当利得返還請求のやり方は、以下の4ステップです。
- 不当利得の証拠を集める
- 内容証明郵便を請求する
- 相手方と交渉する
- 不当利得返還請求訴訟を起こす
順番に解説します。
1.不当利得の証拠を集める
まずは、受益者が不当利得を得ている証拠を集めましょう。
相手方が本当に利得を得ているのか証明しないと返還請求できないからです。
相手の不当利得を証明できる書類は、以下のものがあります。
- 被相続人や受益者の口座の入出金履歴
- 株式の取引残高報告書
- 生命保険の解約通知
- 被相続人の遺言
- 不当利得関係のテキストメッセージ
受益者の口座情報は入手が難しいですが、弁護士に依頼し開示請求を行えば入手可能です。
多くの情報を集めることで不当利得返還の成功に結びつくため、なるべくたくさんの証拠を集めることが大切です。
自分が得る利得を侵害されていると実感したら、早い段階で協議や証拠集めを意識しましょう。
証拠が集まったら、実際に被害にあった金額を計算します。
2.内容証明郵便を請求する
金額計上までできたら不当利得返還請求をしますが、内容証明郵便の発送がおすすめです。
内容証明郵便には、以下の効果があるからです。
- 正式な請求である旨を伝えられる
- 郵便局が相手が受け取ったことを証明してくれる
- 催告があった場合、そのときから6ヶ月は時効が完成しない
内容証明郵便で謄本を作成する場合、郵便局で書式の型式を定められているため注意しましょう。
内容証明郵便の作成で不安がある場合は、弁護士に相談するのを推奨します。
参照元:WIKIBOOKS|民法第150条
3.相手方と交渉する
内容証明郵便の送付後、相手方から返信があれば不当利得の返還について交渉します。
以下の4つは、必ず協議のうえ明確にしておきましょう。
- 被害にあった不当利得の金額はどのくらいなのか
- 実際にどのくらい返還できるのか
- いつまでに返還してもらえるのか
- どのような方法で返還してくれるのか
相手方との話し合いが難しい場合、弁護士に交渉を依頼することも可能です。
話し合いが成立したら、合意書を作成するのをおすすめします。
合意書を作成せず口頭でのやりとりだけにすると、あとで不払いが起きたときに返還請求が困難になるからです。
合意書には返還額や返済方法などを記し、遺産が返還されたら相続人全員で再び遺産分割協議を行います。
相手方と無事に協議ができれば裁判を起こす必要がなく、不当利得返還請求は終了です。
4.不当利得返還請求訴訟を起こす
相手方と交渉しても相手が返還に応じなかったり、返還額などで話し合いがうまくまとまらなかったりするケースがあります。
その場合、利得の返還を実現するために、裁判において民事訴訟(不当利得返還請求訴訟)を起こすことが可能です。
返還を実現するためには、ステップ1の不当利益の証拠をどれだけ集められているかが重要です。
不当利得を立証できれば、裁判所が相手に対し返還命令を執行します。
判決に応じなかった場合、強制執行による財産の差し押さえも可能です。
ただし、裁判を起こす場合は基本的に弁護士に相談することになり、お金や時間がかかるため注意しましょう。
裁判に持ち込んで争うべきなのか慎重に判断することが大切です。
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